やまごやのおやじの独り言

薪ストーブと兄

 極寒の中にある山小屋のストーブは、もちろん電気ストーブではなく、石油ストーブでもない。
昔ながらの薪を燃やしている。
 寒い冬のストーブは最初なかなか燃えにくい。煙突の中の空気が冷え込んでいて重く、技術的には横の長さより立ち上がりの長さが3倍ほどないと煙を引き込みにくいのである。
また、最初に紙とか重油など、燃えやすいもので、冷えた空気を暖めてやれば、間もなく音を立てて燃える。しかし北風など風向によって、逆流して燃えない時が年に2,3回ある。
 山小屋の煙突は、外気との温度差が激しいので、煙が水滴のように煙突の内側にタール状となって張り付き、長い間には穴が小さくなるほどだ。それがある時、急に燃え出すことがある。
 その時は煙突が真っ赤な火柱となって、ゴーゴーと音を立てて燃え上がる。恐ろしいほどの火の勢いである。山小屋の火事は、この煙突についた油の掃除を怠っていることによるのが一番の原因である。1ヶ月に1回は必ず掃除をしなければならない。
 私も家族も2、3回それを経験し、肝をつぶした覚えがある。私の一番上の兄が大東亜戦争の際、たった一日の休暇をもらって帰ってきたときのことであるが、山小屋まで日帰りで登って煙突を掃除し、修理をして下山した。男の子3人が兵となり、年寄りと子供しかいない我が家を心配してのことだった。
 この話を父は戦地の私に便りしてきた。私は声を出して読み、泣いた。どんな電化時代になっても、自然の薪ストーブは山小屋には必要である。それは暖かいだけでなく、心も温めてくれるからである。
(美ケ原の四季より)
薪ストーブ


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2010 美ヶ原高原ホテル山本小屋